今年1月に明らかになった加計呂麻島のチップ工場と森林伐採問題は地元住民や島外からの反対署名運動で一時凍結となりましたが、4月末に奄美市住用町山間にチップ工場建設の説明会が行われ、問題は加計呂麻島だけでなく奄美大島全体の問題となってきました。詳細の経緯は住民の会のホームページをご覧ください。
また、どんな問題点があるのかも上記ホームページをご覧ください。
伐採による森の保水力については「奄美の森の保水力とは」という記事を「し~ま」に書きました。
加計呂麻島では当初から住民の方々の反対があり、自然保護団体などからの瀬戸内町と奄美市への申し入れなども行われていますが、山間地区をはじめ奄美大島・本島側ではいまひとつ反対の声が上がっていません。
それはチップ工場の現地周辺ではない、伐採される森林の近くではないからなのかもしれません。
しかし、観光ガイドの会社として、実際に観光客を奄美大島のあちこちにご案内している者としては、チップ工場が出来、森林が伐採されることは奄美の観光に大きなダメージだと考えています。
どうしてダメージなのか、自分たちにどうして関係してくるのか多くの人に知って欲しいと思っています。その上でチップ工場・森林伐採が必要なのかどうかを考えてください。
かなり長文になります。
「観光」とは
「観光」とはいったい何でしょう。
なにかすると”観光の目玉に”とか言われますが、わかっているようでわからない言葉です。
大辞林 第二版 (三省堂)で調べてみると、観光および観光地として次のような説明があります。
かんこう くわんくわう 【観光】
(1)他国・他郷を訪れ、景色・風物・史跡などを見て歩くこと。
かんこう-ち くわんくわう― 【観光地】
明媚な風光、史跡・文化財・温泉などに恵まれ、観光客の集まる土地。
WikiPediaでは観光に説明があります。
観光庁を見てもよくわかりません。
ただ、現場でお客さんをご案内して考えて言えることは、その地域と時代によって「観光」の定義は違ってくる、ということです。
実は「観光」に関する学問というのは少なく、他にもあるかもしれませんが、沖縄の観光についてまとめた沖縄イメージを旅する―柳田國男から移住ブームまで (中公新書ラクレ)が大変参考になりました。
「奄美の観光」については後日書きたいと思います。
「観光」とは地域の総合産業
先にご紹介した「沖縄イメージを旅する」の中に大変興味深い記述があります。(P251)
地元老舗のホテルミヤヒラを経営し、八重山観光を長らく牽引してきた宮平康弘さんは、2001(平成13)年の9・11テロのときに、こうした観光への見方が一時的であれ変化したという。
テロで八重山の観光客も激減したとき、スーパーやコンビニ、食堂、居酒屋をはじめ、商工業や農漁業など他の産業もひと通り、売上が大幅に落ちた。通常なら八重山には毎日平均して、5万3000人の住民と5000人くらいの観光脚がいる状態なので、観光客が減ると、たちまち消費が落ちてしまうので。
ふだんなら、一部の観光業界だけが儲かるように見えるが、実際に観光客を失ってみてはじめて、観光が他産業に及ぼす波及効果を実感し、一丸となって観光を元に戻そうという気運が高まったそうだ。
奄美に関しても同様でしょう。
観光客が減るようなことがあれば、郷土料理点やおみやげ屋さん、宿泊、観光施設だけでなく、その影響は多岐に渡ります。
レンタカーやタクシー、バスのような交通機関は当然ながら、観光客でもコンビニや商店街を利用します。
観光客といっても短期間の住民ですから、住民がその分いなくなると考えていいのではないでしょうか。
森林伐採がなぜ「観光」にダメージを与えるのか
観光客は何故、奄美に来るのでしょうか。
一村美術館だけを見るためでしょうか。大島紬を買うため?黒糖焼酎を飲むため?マングローブの中をカヌーで廻るだけ?サンゴ礁を見るだけ?
そうでは無いと思います。奄美全体を見て感じるために来ていると感じます。
一村美術館を見て感動し、大島紬の繊細さに感動したその目で無残に切り取られた森をどう感じるでしょう。
一部の保護された原生林を歩いて感動したその目で、マングローブの水の中の森に感動し、水中の色とりどりの魚やサンゴ礁を見たその目で、近隣の集落の周囲の山が伐採されていたらどう感じるでしょうか。
別の考えをすると、住まいを探すときにどういう基準で探すかというとその家の中も大事ですが、周囲の環境も考慮すると思います。
どんなきれいな内外装で機能的に優れている家であっても窓から見える景観や環境が良くなければ住まないでしょう。
森林自体が特別なものでなくても全体の景観として欠かすことができないものなのです。
実際に今回の問題が発生して、奄美大島や加計呂麻島にツアーを企画している、個人向けの個人パックを販売している旅行会社に意見をお聞きしましたが、森林が伐採されれば奄美の魅力は無くなる、お客さんにお勧めすることはないだろうというのが大部分の意見です。
森林の伐採は「観光」産業を縮小させる
チップ工場側はチップ工場が出来、伐採を行うことで雇用が生まれると言っていますが、一方で上記のように観光業者だけでなく関連する多くの業種にマイナスになり、奄美大島全体としてはマイナスになるでしょう。
現在、世界遺産登録に向けて動いていますが、単に世界遺産登録とならなかったとしてもイメージは良くないでしょうが、島自ら登録とならないような伐採を許したとなればさらにイメージダウンになると思います。
このように森林の伐採は水資源の問題や山の崩落のおそれ、動植物など生態系への影響もありますが、私たち住民の経済へも大きな影響を与える恐れがあります。
是非、上記のことを考えた上で、伐採問題をどうとらえるか考え、声を上げてください。