先日、自然保護団体5団体が奄美市議会に陳情書を提出したことが地元新聞で報じられていましたが、今日、加計呂麻の住民の会が瀬戸内町長宛に公開質問状を提出しました。詳しくは上記リンクをご覧下さい。
色々と動きがありますが、住民の会と自然保護団体、観光関係の団体による「奄美の自然と景観を守る会(仮称)」の準備も進めています。
明日からはウケユリツアーなのでウケユリに関して調べ物をしていたところ、奄美の植物研究の第一人者・大野隼夫先生の「奄美の四季と植物考」(絶版)(発行:昭和57年)の最後に昭和40年代にかけての大規模伐採を嘆き、保護を訴える文章とリュウキュウマツが深山に植えられることの弊害が書かれていました。
今回のチップ工場と森林伐採は大野先生が嘆いているこの時代の行為を再び繰り返すことです。
伐採を許してしまうことは、未来に再び同じ後悔を残してしまうことです。
かなり長文を引用しますが、是非お読みになり、考えて下さい。
まずはリュウキュウマツについて。(強調は引用にあたって私がつけました)
リュウキュウマツについて(P215)
本群島に自生する松はリュウキュウマツだけである。
トカラを北限とし、本群島と沖縄群島の狭い範囲に分布する固有の樹種である。
幹はクロマツに、葉はアカマツに似るが、純然たる独立種である。
元来陽性、近海性の植物で近海性丘陵や乾燥性の山地に適し、深山性ではない。
幼時の成長度は早く、イタジイなどの広葉樹よりタンカも高く、有望樹種としてその栽植が症例されたこともある。
いうまでもなくこの樹木の性質上、近海丘陵や向陽性山地に栽植することは適材適所で当を得たことと思う。
たとえば屋入トンネルをぬけて赤尾木に向う国道の左沿い山脚には小規模ながら見事なリュウキュウマツの美林を見ることができる。
しかし奄美大島の中南部山岳地帯や、徳之島の三京などのような深山性の地域に、松の人工造林を行い、周期的な伐採を繰り返すとすれば、それは郷土の自然の決定的崩壊につながることは必死であろう。
松の森林は光が十分さしこむので林床には、ギーマ(シャクナゲ科)などの陽性植物が生じる。
しかし多くは枯れ落ちた松葉がしきつめられる。松葉は樹脂が多く、バクテリアによる分解はされにくく、糸状菌によって分解されるため、土壌は酸性化し白い菌糸が発達した厚い粗腐植層をつくるので雨水が土中にしみこむのをさまたげ、土壌に還元される養分は少ない。
特に伐採後には降雨により粗腐植層が表土と共に流出し貧養土となり荒原化するのである。
松の森林の下層植生の貧困さは、それを如実に物語るものである。
したがって、松の造林による自然植生の破壊が起因となり、水源の枯渇、地力の衰退、ひいては河川に流出する有機物の減少、それを食物とする一次消費性のプランクトンの減少となり、河川、沿岸漁業の不振などという問題にまで影響することになろう。
山紫水明の風景美の失われることも明白である。
奄美の自然のすごさと伐採による弊害については以下。(強調は引用にあたって私がつけました)
奄美の自然の特異性(P212)
この特有の生物相の基盤をなす植生は、イタジイを優占種とし、これに混生するイジュやイスノキ、クロバイ、アマミアラカシ、タブノキ、コバンモチなどの常緑広葉樹林で、この中に多数の固有植物や北限分子が包容され、質的に本土と著しい相違があることが、重要な特異性として指摘されるのである。
植物生態学者として、東奔西走の活躍をしておられる横浜国立大学の宮脇教授は、二回にわたり亜熱帯唯一の原生林といわれている西表(いりおもて)の調査をされたが、名瀬の金作原国有林を踏査されるにおよんで、西表では到底太刀打できないと奄美の常緑広葉樹からなる自然林を激賞されている。
また、鹿児島大学農学部の迫講師は、昭和四十六年二月八日付の朝日新聞に「奄美の天然林を切るな」「激減した亜熱帯樹、続く伐採、動物も滅びる」という見出しで、「住用、瀬戸内にまたがる八津野(はつの)国有林は、奄美大島の本土復帰までは、奄美以南でしか見られないイタジイ、イスノキ、イジュ、ミヤマシロバイなどの常緑広葉樹が、うっそうと茂った亜熱帯特有の森林であった。
ところが全体で約600ヘクタールの中で残っているのは約100ヘクタールに過ぎない。
伐採後にはリュウキュウマツが植えてある。
昔のままがよいという懐古趣味でいうのではない。造林は自然の姿に近い形が望ましいが、今のペースで伐採してゆくと、その見本さえなくなる。
林野庁は拡大造林で経済効果の高いリュウキュウマツの植林をすすめているが、それは森林の公益性を忘れたやり方である。」さらに続けて「森林が伐られることは単に学術上貴重な研究資料がなくなるということだけではない。森林がなくなることは、またそこに住む動物も滅びることだ。」
アマミノクロウサギやルリカケスなどの天然記念物のことも考えなければならない。
「一度伐れば最低一五〇年を待たなければならないだろう」と悲痛な警告をしているのである。
奄美群島に自生する植物は約1200種類を数えるが、その中には固有植物約50、北限または準北限分子約250を包含するのである。
これまでとりあげた植物の解説はほとんどこれらの植物についてであるが、それはまだその一部にすぎない。
ともあれ、奄美の植物や動物に関する特異性を我々はもう一度見直し、前記学者たちの「奄美の自然を守れ」という声に心眼を注ぐべきではないだろうか。
ふるさとの山、ふるさとの川、ふるさとの海を守ることは原題に生きる島の人々の重大な責務であることを肝に銘ずべきである。亡びゆく天然林(P214)
近年の山林業の進展は著しく、チェインソーがうなり、ケーブルは宙に舞い、大型トラックが林道をぬい、奄美の山容を大きく変えてきた。
さらに最近は用材やパルプ材として天然林の伐採は加速度的に広まり、かつての樹海も無残にも茶褐色の地肌をさらし、すでに昔日の面影はない。
奄美の天然林の原型はイタジイを優占種とする常緑広葉樹林であることは度々述べてきた。事実、昭和三三年ごろまでの八津野国有林は常緑広葉樹がうっそうと茂り、イタジイをはじめイスノキ、シマサルスベリ、タブノキ、ハゼノキ、エゴノキ、イジュ、クロバイ、アマミアラカシなどの高木が混生し、競って天を衝き、目通り直径50センチ内外、あるいはそれ以上の大木が文字どおり林立していたのである。これらの植物には着生植物も多く、南方系のクスクスラン、シコウラン、ナゴランなどの他、キバナセッコク、カシノキラン、カタヒバ、ヤドリコケモモ(固有種)などが見られt。
下層にはヘゴ、ヒカゲヘゴ、チャボヘゴ、アマミシダなどの陰性植物が昼なお暗く繁茂、亜熱帯森林としての生々しい実感が未だに脳裡に刻まれている。
このもっとも典型的な奄美の大森林も今は思い出の中の一景観に過ぎない。自然の保護(P217)
およそ天然林などの自然の貴重な資源を、単なる産業面の対象として捉えることは極めて危険な考え方である。
安定した天然林は、その土地の地理や歴史の象徴であると共に重要な文化財でもある。一度破壊された天然林の復元のためには、少なくとも百年以上の膨大な時間を要するのである。貴重な自然は現在の人々のためばかりでなく、子々孫々に残し、自然と人生の調和がはかられなければならない。大都会や工業地帯などにおいて人心が荒廃する重大な原因もこのバランスの喪失にあるといえるのではないだろうか。
このような考えに立つとき、郷土に今なお残る天然林の保護は、自然保護の中でも最も優先的にとりあげなければならない緊急問題であることを訴えたい。