よもぎ餅を平たくしたような小ちゃな島だった。健太郎は二人の母と一緒に暮らしていた。一人は千代おばあちゃん、もう一人はサンゴの海。「千代さんは大地の母、海は生命(いのち)の母」と健太郎は思っていた。
千代さんは勉強のこと、いいこと悪いことなど、頭が膨れるほどいっぱい教えてくれた。海は心のときめきや全身で感じとることを教えてくれた。千代さんの教えは頭に、海の教えは全身に染み込んでいった。
住まいはカヤぶきの家。戸を開け放ち、風があいさつしながら家の中を通り過ぎていく。家のそばには大きなガジュマルの木があり、台風から家を守っていた。
健太郎はガジュマルが好きだった。寝相の悪いやんちゃ坊主のように、横へ横へとたくましく、のびやかに枝や根を張っていく。その大きな幹の前に立つと、ガジュマルが「いらっしゃい」と手招きしているようで、健太郎は毎日、登って遊んでいた。
素足で幹を踏み締めると、木の感触が伝わってくる。最初はごつごつしているが、そのうち温かくなって、木が生きていることを足の裏が感じ取る。
幹に腰掛ける。鳥たちが寄ってくる。風が木の葉のカーテンを揺らして吹いてくる。海で泳いでいるように心地良い。健太郎は千代さんの言葉を思い出した。
「遠い昔、人間のお父さんやお母さんはこんなガジュマルのような、手を広げた木の上で暮らしていたんだよ。だから、木を大事にすると木は必ず人間を守ってくれるんだよ。」